スピーカーという「新しい機械」について

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スピーカーという機械にはまだ100年ほどの歴史しかありません。その新しい機械が、新しい問題を引き起こしています。

スピーカーが発明されたのは20世紀に入ってからです。

「スピーカーを発明した人は誰でしょうか」(日本音響学会)

「広い空間に音を放射する」というスピーカー本来の研究が行われ始めたのは、真空管の発明による増幅作用が完成された後で、1914年頃になります。当初は、電話機の受話器と蓄音機のホーン(ラッパのような形をした部分)を組み合わせたものであったようです。現在広く使われているダイナミック・コーンスピーカー(円すい形の振動板がフレミングの左手の法則に従って動くスピーカー)は、1919年頃サイクスが考案し、1925年にゼネラル・エレクトリック社(米国)でライスとケロッグの設計により製作されたのが原形といわれています。

さらに、それが誰でも買えるほど安価になり、小型化され、出力と音質が向上し、カセットテープ、CD、ICチップといった記録媒体の発達によって繰り返し再生するのが簡単になり、パソコンを使って音源を手軽に制作・収録できるようになったのは、ここ数十年の出来事です。

重要と考えられる出来事を、簡単に時系列で紹介します。

時期 出来事
1920年代 真空管によるPAシステムの発達
1954年 トランジスタ式の携帯メガホンの発明
1960~70年代 音楽ライブにおけるステージモニターの登場
1970年代 コンパクトカセットとラジカセの普及
1980年代 小型の圧電スピーカーの普及、半導体の進歩によりメロディーを鳴らす機械が登場
1985年頃 ポータブルCDプレイヤー、CDラジカセの登場
1990年代 音源LSIの発達、半導体メモリの容量増加により「しゃべる」機械が登場
コンピュータ・ミュージックの登場
1996年以降 書き込み可能なCD-Rの低価格化
2000年代 携帯電話と着メロの普及
MP3プレイヤーの普及
2000~2010年代 一般的なPCでマルチトラックのデジタルオーディオ編集が可能に

スピーカーという機械は確かに便利です。広範囲の多数の人々に対して一斉に、かつ強制的に情報を与えることができます。その利便性と技術の進歩によって、BGM、宣伝音声、行政放送、案内放送、テーマソング、警告音、屋外ディスプレイの音声といった、たくさんのスピーカー音が街中に流れるようになりました。その結果、拡声機騒音問題という新しい問題が引き起こされています。

「商業宣伝等の拡声機放送に係る騒音の規制等対策について」(環境省)

近年の高性能機器の開発普及に伴い、拡声機が商業宣伝等に手軽に使用されるようになってきており、それに伴って拡声機騒音問題が生じてきている。

以上の事実を、「音に神経質な人が増えた」というような、ありがちな声への反論として提示しておきます。まず先に音が増えているのです。音が増えたら、騒音被害を訴える人が増えるのは当たり前だと思いませんか? 私たちの暮らしが、これほど大量かつ大音量の音に囲まれるようになったのは、歴史的にも初めてのことでしょう。

具体例をいくつか示します。

例えば、移動販売車の騒音に苦言を申し立てると、江戸時代から続く日本の伝統を破壊するのか、というような意見があります。しかし、江戸時代に大音量の車載スピーカーが存在しなかったことは明らかです。人々に親しまれる伝統的な移動販売は、もっと素朴なものでした。

スーパーなどの店内がうるさいという声があります。一昔前のスーパーは、たくさんのスピーカーを使って宣伝やテーマソングをひっきりなしに流していたでしょうか? 2000年頃の「おさかな天国」ブームの前後で光景が一変したという意見があります。さらに近頃は液晶テレビの宣伝音声も増加しています。

祭りがうるさいという苦情が増えているそうです。これも地域社会の崩壊などともっともらしく語られることが多いのですが、最近の祭りは昔とは違って、スピーカーで大音量の音楽を流していませんか? 真犯人は大音量のスピーカーではないでしょうか。

救急車のサイレンがうるさいという苦情があるそうです。人命を何だと思っているのか、許せない、と切り捨てるのももっともです。ですが、高齢者の増加や不要不急の119番通報によって救急出動の件数が増え続けており、数十年前と比べて数倍、地域によっては10倍近くにもなっているということを踏まえるといかがでしょう? これは本当に難しい問題です。

スピーカーではありませんが、有名な近隣騒音事件に1974年のピアノ騒音殺人事件というものがあります。これはある意味、高度経済成長と音楽教育の広がりによって一般家庭にピアノが大量に入ってきた結果、起きるべくして起きた事件です。

話はそれほど簡単ではないかもしれません。ですが、物事には原因があって結果があります。騒音に困っているという人が現れたとき、「うるさいクレーマーが現れた」と思う前に、まず、音が増えているのではないか、生活環境そのものが本当にうるさくなっているのではないか、と一度立ち止まって考えてみていただければ幸いです。

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