「左へ曲がります、ご注意ください」

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交差点の近くや、トラックの通り抜ける住宅街に住んでいて、「ピロピロピロ、左へ曲がります、ご注意ください」というアナウンス音に悩んでいる方が少なからずいらっしゃるようです(「左へ曲がります うるさい」などで検索)。音量も非常に大きく、近頃は街を歩いていても四方八方からひっきりなしに聞こえてきますので、左折車両が多い場所に住んでいる方は本当に辛いだろうというのは容易に想像できます。まるでピンポンダッシュのように大きな音を鳴らしては去っていく個々の車両や事業者に苦情を言って回るのも難しいでしょうし、多くの被害者はどうすればいいのかまったく分からないのではないでしょうか。

歩行者等の巻き込み防止のための安全対策ということになっていますが、だからといって騒音問題を無視していいということにはなりません。そもそも、自動車の左折時に注意するべき主体は運転しているドライバー本人でしょう。「ご注意ください」というのは、歩行者が避けることを期待しているメッセージであり、ドライバーの安全義務を放棄しているようなものだと思います。

区所有自動車のアナウンス騒音について(港区)

交差点に近くに住んでいる。

清掃車を含み、港区と表示された自動車が早朝から夜遅くまで「チリリーン左に曲がりますご注意ください」などと大きな音で連続の繰り返しアナウンスをしている。(…)

信号待ちの時は1分間も同様のアナウンスを聞かされ、テレビの音が聞こえないほどだ。1日中聞かされる身にもなって欲しい。騒音でしかない。せめて、連続の繰り返しアナウンスだけでもやめてもらうように関係部署に伝えて早急に対応するよう希望する。

この音声ですが、よく耳にするものはデンソーの「ボイスアラーム」という製品のもののようです。そういえばいつもまったく同じ音声ばかり耳にすることに、教えられて初めて気付いたのですが……。騒音に苦しんでいる方、おかしいと思っている方は、メーカーに意見された方がいいと思います。他にも何社か同じような機器を販売しているようです。YouTubeで音声を探せば調べられるかもしれません。

環境省や国土交通省に規制を求めることも考えられます。

特定の企業の少数の無思慮な製品開発者たちがデザインした音声が、いつのまにか街全体を、日本全国を覆い尽くしてしまい、解決困難な状況になっているというのは、極めて馬鹿馬鹿しいケースのように感じます。

この問題については、以下のような素朴な意見をよく見かけます。

左(右)に曲がります : 生活・身近な話題 : 発言小町

トラックの音声機能は巻き込まれ事故を防止するためのもの、つまり歩行者の安全のために必要不可欠な機能です。

言うまでもありませんが、あなたの安眠よりも、歩行者の安全のほうが、はるかに重要ですし、優先します。比較の対象にすらなりません。

まったくの間違いで、安全も安眠も、どちらも大事に決まっています。立派に比較対象になります。そもそも、騒音問題も安全の問題のひとつであるという認識がないのではないでしょうか。

WHO/Europe - Noise(世界保健機関ヨーロッパ)

"Noise is an underestimated threat that can cause a number of short- and long-term health problems, such as for example sleep disturbance, cardiovascular effects, poorer work and school performance, hearing impairment, etc."
「騒音は、睡眠障害、心臓血管系への影響、労働・学習のパフォーマンス低下、聴覚障害その他の多数の短期的長期的な健康問題を引き起こす過小評価されている脅威である」

それでも歩行者の安全こそが絶対ではないかという方に向けて、ちょっと難しい話をしましょう。

わが国は年間3904人(2016年)の交通事故死者を出しています。一方で、自動車は人の移動や物流に不可欠です。ある意味、私達の社会は、年間約4000人もの人身御供を差し出して、それと引き換えにたくさんの経済的な便益を得ているのだという考え方ができます。たとえ自分で自動車を運転しなくても、スーパーで買い物をするとき、バスに乗るとき、ネットで商品を購入して配達してもらうとき、その他、生活のあらゆる局面で、私たちは統計的な殺人に加担しています。その点において、潔白でいられる人はどこにもいません。

本当に安全が重要だと言うなら、「左へ曲がります、ご注意ください」などという音声を流す以前に、そもそもトラックを走らせなければいいではないかという暴論を唱えることだってできるのです。しかし、それでは社会が成り立たなくなってしまいます。食べ物を手に入れることもできず、皆餓死してしまうでしょう。すなわち、スローガンとしての「安全第一」という言葉があったとしても、現実に安全が何もかもを差し置いて絶対的に優先されることはないし、そもそもできないわけです。トレードオフが必ず発生しているのです。

自動車社会を肯定する、あるいは肯定せざるを得ない以上、さまざまな便益や弊害、原則を考えあわせて、多くの人が納得できる落としどころとなる自動車の運用方法を考えることになります。そして、この「左へ曲がります、ご注意ください」というアナウンスは、第一に安全面での実効性が疑わしく、第二に歩行者優先の原則に反し、第三に騒音という実害が大きすぎます。

忍び寄る「音の花粉症」 / SAFETY JAPAN [細野 透氏] / 日経BP社

そこのけそこのけ自動車が通る

自動車で「なんとかならないか」と思うのが大型トラックだ。信号で止まっている大型トラックから、やかましい音が聞こえてくる。「チャララーン、チャララーン、チャララーン。左に曲がります。ご注意ください」。

信号待ちの時間が3分だとすると、3分間ずーっと、「チャララーン」状態だ。これでは、交差点の周辺に住む人はうるさくて大変だろう。そもそも、左に曲がりたかったら、運転手自身が気をつければいいのだ。

特に、騒音問題ということで話をしますと、もともと交通騒音に悩んでいる方々が大勢います。規制も年々強化されており、全国の自治体で自動車騒音の常時監視が行われ、デシベル値を低減する取り組みがなされています。せっかく大勢の自動車技術者や行政関係者が、少なからぬ研究開発費や税金を投じて、エンジン音やタイヤの摩擦音といった騒音の削減に尽力しているのに、車両にスピーカーをつけて大きな音声を出してしまったら何もかも台なしではありませんか。この音声に限った話ではありませんが、どういうわけかスピーカーの騒音だけが存在しないかのような扱いになっているのです。現実として、街中はおろか、観光地ですらも頻繁に聞こえてくる「ピロピロピロ、左へ曲がります、ご注意ください」は、明らかな公害であるとともに景観破壊でもあると思います。

ごく少数の人々が、自分勝手な判断でスピーカーを使いはじめることによって、広範囲の環境が汚染され、多数の人々に影響が出るのが拡声機騒音問題の大きな特徴です。また、音を鳴らすのは簡単なのに対して、それを制止するのは困難という非対称性があり、往々にしてやりすぎが起きます。「左へ曲がります、ご注意ください」は典型的な例のひとつと言えるでしょう。 

環境省の報告書に、拡声機の使用における重要な原則が提示されています。

(1) 拡声機放送を行う者の責務

拡声機放送に係る騒音に関する対策の考え方としては、まず第一に、何人も拡声機放送を行うことにより周辺の静穏を害することのないよう努めるべきであり、すべて拡声機放送を行う者及び拡声機放送を行わせる者には静穏を害さないよう努めるべき責務があるとの考え方を前提とする必要がある。 拡声機放送を行うことにより発生する害は、聞く側にとっては拒みようがなく、放送を行う者の一存により音環境が支配される。したがって、規制されるか否かにかかわらず、拡声機放送を行う側の自覚により、拡声機放送は必要な場合にのみ行い、その場合には騒音とならないよう適切な方法で行わなければならないと考えられる。

また、「左へ曲がります、ご注意ください」というような意味のある音が、無意味音より騒音問題となりやすいことも指摘されています。

拡声機騒音問題においてはその音量や繰り返し回数といった面だけではなく、拡声機放送を行うことにより発生する音が音声や音楽などの意味のある音であることから、低い音量でも聞く人によって不必要な場合等には、同じ音量の無意味音(工場騒音等)による騒音以上に問題となる場合もある。

例えば、最初に紹介したような交差点そばに住んでいる人ですと、安全な自宅の中にいるにも関わらず、屋外からスピーカーで「ご注意ください」と呼びかけられるわけですが、いったい何を注意するのでしょうか? それが朝から晩まで、毎日毎日続くとなれば、ほとんど拷問ではないでしょうか。街を歩いていて「左へ曲がります、ご注意ください」という音声が聞こえてきたとき、すぐそばに住居がないか確かめて、中に住んでいる人のことを想像してみてください。

以上を踏まえて、機器を取り付け使用している事業者やドライバーの方々には、使用の停止を検討していただきたいと思っています。メーカーは「死角には一声かける心づかい」などと銘打って製品を販売していますが、さまざまな意味で、このような機械に心づかいなどありません。巻き込み防止には、車両のエンジン音や、ウインカーの点滅、そして何よりもドライバーの安全運転で十分なのではないでしょうか。

同時に、メーカーおよび国土交通省には、車載レーダー等による自動ブレーキを全面採用するか、どうしても音声警告機器を作り続けなければならないのでしたら、指向性スピーカーや、周囲の音環境に応じて音量を変える適応型スピーカーといった技術の導入、もしくは単純に音量を大幅に下げることを提案したく思います。デンソー「ボイスアラーム」をはじめとする現行の機器は、生活環境を保全するという観点がまったく抜け落ちており、改められなければならないと考えます。さらには、すでに広く全国に普及してしまった機器をどうするかということについても考えていただきたく思います。現に自宅で騒音に苦しんでいる方々がいらっしゃいます。「取り返しのつかないことをした」という認識を少しは持っていただきたいものです。

この国におけるスピーカーの使用全般への問題提起として、「なぜスピーカーを軽々しく使ってはいけないのか」もご一読ください。

関連資料・リンク